灰街令 試作集

灰街令の試作集

ヨハネの犬

上の向こうには、光を裏側にたっぷりとふくんで透かし見せながらも、決してそれらを塊として射し入れることのない、灰色のかさなりの群れがあった。 前の向こうには、上下前後に静かに揺れ、上の向こうから漏れ出た光の雫をぴかぴかとこちらへと反射させ続け…

ジョルジュ・アペルギス詩論

■ まず、「音楽言語」についての話をしよう。そもそも音楽言語とはなんなのだろうか。 例えば音楽を「感情の言語」と見なす思想は18世紀前半に多く見られるものだ。*1この考え方によれば音楽はあたかも自然言語のように文法――例えば音楽における「和声」はま…

『ゆらめくかたち』と「線の音楽」 ――黒坂圭太の音楽性について

本論では、2017年12月23日に小金井の現代座ホールにて行なわれたイベント『ゆらめくかたち 不定形のヴィジョン 黒坂圭太X鈴木治行』について論じようと思う。 私がイベントという言葉を使ったことにはわけがあり、それは、『ゆらめくかたち』が、上映会/演…

幽霊的ポリフォニー――近藤譲試論

【世界について】 1970年代の終りごろ、ニューヨークに10か月ほど滞在していた近藤譲はジョン・ケージとしばしば話をしたという。 打ち捨てられ、もはや使われなくなった高架道路についてケージは言う。「美しいでしょう!」 目を細め語るケージ。その表情は…